なくて、夜眠っている間に見る夢の話である。
小さい頃によく見た怖い夢の記憶って、おそらくは
誰でもあるのではないだろうか。
僕の場合はだいたい、二つのパターンに分けられると
思う。
一つは追いかけられる夢。たとえばバルタン星人
回されるとか(これがテレビ同様、逃げ切ったと思ったら
前にある曲がり角から出てきたりして、本当に怖かった)、
恐ろしい伝染病が流行し、自分以外は皆感染してしまって
逃げ回るとか(今にして思えばバイオハザード
これも相当怖かった)、そういう夢で、今でも思い出すと
かなり恐ろしい。夢解釈の本など見てみると、追いかけられて
足が動かない場合は、追いかけてくるのは道徳とか社会の規範
などを象徴していて、心の奥底ではそれに捕らえられることを
望んでいる、などと書いてあったりするのだが、僕の場合は
しっかり逃げられる。ただ、特徴的なのは、追いかけてくるのは
いつも大勢で、味方がいない、最初、味方だった者もいつの
間にか、追う側に加わっているという点で、そういうところが
今までの人生を予見していたようにも思われる。今も昔も、僕は
折り目正しい役立たずになって、世の外に出たくてたまらない
のだ。だが、そんなことを言っていられるのもせいぜい学生時代
までで、嫌が上にも世の中に押し込められて暮らしている。また
そうでないと生活そのものが成り立たない。大人になって、追い
かけられる夢は見なくなったが、夢ではなく、現実で疎外され、
追い回されているのだから、皮肉なものだ。
もう一つのパターンは、路上にある自動車の下にボールが
入ってしまい、這ってその下に潜り、ボールを取って出てくると
件の自動車が崖っぷちにあって、その崖を落ちるというものだ。
この夢は何夜か連続で見た。何度見たのかははっきりしないが、
最初の夢で、ボールを取った後、反対側に出たら落ちたので、
次の夜はよく確認して、自分が入った側に引き返したのに落ちた
ことははっきり覚えている。そんな調子で、車の下に潜るたび、
どうしたら落ちないか考えながら這い出てきては落ちるのだ。
この夢だけはどんな意味があったのか、未だにさっぱりわから
ない。ただ、落ちていくときの焦燥感とか心が潰れるような一種
独特の寂しさのようなものはその後の人生でも親しく感じてきた
ようにも思える。そしてまた、毎夜毎夜、どう合理的に考え、
どう対処しても結局落ちていくことになるのは、どこか人間社会
そのものの持つ不条理にも呼応しているようにも感じる。
人は生まれながらに、どことも知れぬ闇の中を、ずっとずっと
永遠に落ち続けているのかもしれない。
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